講談社現代新書「ベートーヴェンの交響曲」を読みました。
指揮者・金聖響がベートーヴェンの交響曲全9曲についてその魅力を語りおろした本。玉木正之との共著。どうも、聖響サンの語りを玉木氏が文章化した、という感じです。
彼はこの書で、一貫して音楽そのものについて語ります。「ここは怒りの感情がほとばしるようで圧倒されます」なんてことは言いません。彼が語るのは曲の構造の美事さ、彼が語るのはメロディのパートを次々と違う楽器に渡しながら微妙に変化させていく展開の妙、彼が語るのは確立された「型」をあえて破っていくお茶目さ(ベートーヴェンが!)です。これは、指揮者ならではの語り口かな、と感じます。
聖響氏は、「ベートーヴェンをCDで聴くときは手元にスコア(楽譜)を置いて読みながら聴くことをおすすめします」なんて書いてます。「楽譜が読めなくても、音符の流れを追っているだけでも楽しいはず」…って、それはやはり楽譜が読める人の意見じゃないか、敷居高いよなあと思いますが、これもやはり聖響氏の「ベートーヴェンが表現したかったことはすべて楽譜に書いてあり、それ以上のものはない」という考えのゆえなのでしょう。実際、読めば面白いのですよ(私は一応読めます、為念)。「何回か読んで終わりの小説と違って、シンフォニーのスコアは一生眺めて楽しめますからお得ですよ」って、それにうなずける人はかなり限定されると思いますが(汗)。
さてベートーヴェンの交響曲で、最近急速に有名になったものといえば、「のだめ」で全面的にフィーチャーされた「第7番」です。(なんでも、全音楽譜が出している「ポケットスコア」のシリーズで、2007年に一番売れたのは「運命」や「新世界より」を抑えて「ベト7」だったそうです)
しかしながらこの本では、その「のだめ」に関する言及はありません。聖響氏、一部では「千秋のモデルでは」とも言われているようですが、どうしてなんでしょうね。版元も同じ講談社なのに(笑)。
聖響氏の「のだめ」評、というか、「フィクションに描かれた音楽」についての意見を読みたかったところですけれど、それはまたの機会ということで。この本がベストセラーになって、シリーズ第2弾「マーラーの交響曲」なんて本が企画されたときに考えていただきましょう。(まさか、マーラーも「スコアを読め」なんて言いませんよね?)
追記:玉木氏の日記によると、第2弾の企画がはやくも進んでいるらしい。『ロマン派の交響曲〜「未完成」から「悲愴」まで』、中心はブラームスだそうです。
曲のことを語る合間には、もちろんいろんなエピソードも挟まれます。その「第7番」の初演をめぐるエピソードなども興味深いものでした。当時のヨーロッパは、ナポレオンが大陸を席巻し、そして敗れて島流しになった、そんな時代。ベートーヴェンも頼まれて「戦争交響曲」なる向こう受けする代物を作り、これがまた(戦勝記念もあって)大衆にえらい人気を博していたわけです。彼はその「戦争交響曲」目当てで来たウィーンの聴衆に第7番の初演をぶつけ、大評判を取る。それまでベートーヴェンは、貴族などの物好きが注目していた「現代音楽作曲家」だったのが、一躍「時代を代表する大スター」となる、そんな曲だったというのです。
なるほど「のだめ」のテーマ曲になった理由が、なんとなくわかりましたよ。聖響サンは「第4楽章などはもう完全にロックで、ぜひジミヘンに弾いてもらいたかった」なんて言ってます。
そして今でも人気の高い「第7番」とほとんど演奏されなくなった「戦争交響曲」を対比して、流行とは何だろう、後世に残る音楽は何だろうと問いかけます。(しかしながらここでビートルズとストーンズを対比させているのは、異論がある人も多いと思いますが・笑)
この本には楽譜もたくさん収録されていますし、文中でも「文字でうたってくれて」います。(「♪ソソソソ〜、ソソソソ〜、ソソソソ〜、シラソファ〜…」とか「♪タララティータララッタッラララリララ〜」というふうに。さて、これはどの曲のどの部分でしょうか)
とはいえ、やはり実際の曲を聴かないとイメージも湧きません。幸い、今はCDの交響曲全集(5〜6枚組)が2千円台からありますので、ぜひ聴きながら読みたいものです。この前CDショップを覗いたら、カラヤン&ベルリン・フィルという大物の全集が3千円台で売られていて(もちろん新品です)驚きました。
…というか、もともと私がこの本を買った理由が、何年か前に6枚組の全集を買ったものの有名曲以外はほとんど聴いてないという困った状態なのをなんとかしようというものでしたので。
ところで、同業者という立場だからかどうか、この本では「おすすめの演奏はこの指揮者」とか、「この人は巨匠ぶってるがダメ」といった話はほとんど出てきません。しかし唯一、「これはスゴイ」と書いてある演奏があります。さてそれは誰のどの演奏でしょうか?
posted by gyogyo6 at 00:25
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