2010年09月13日

「中村とうよう0点」の歴史

超面白く、たいへん貴重な本が発売されました。

B0041FIN40 MUSIC MAGAZINE増刊 クロス・レヴュー 1981-1989
ミュージックマガジン 2010-09-13

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ミュージック・マガジン誌での名物連載「クロス・レヴュー」を、コーナーができた1981年から1989年までそのまま収録したものです。毎月7枚のアルバムを、4人の筆者が10点満点で採点して論評するというもの。この形態はゲーム雑誌などでも見かけますが(むしろそっちのほうがいろんな意味で有名ですが)、オリジナルはこっちです。もっとも、こっちも連載開始時に「『シティロード』の真似です。ゴメン」と白状していますが。

さてクロスレヴューの名物と言えば、編集長だった中村とうようの歯に衣着せぬ評。平気で2点3点という低評価を連発し、伝家の宝刀「0点」もしょっちゅうでした。有名なところではパブリック・エネミーに2作連続0点をつけたり、トム・ウェイツに-10点などとありえない点をつけたり。せっかくなので、その0点つけられたレコードを抜き出してみましょう。なんか趣味悪いな。なおタイトル等は当時の表記に従ってます。

  • 1981年
  • ロンドンの街角/ロックパイル (どんなことやってるのかと思ったら、ナント60年代前半のアメリカを真似したような音楽だった)
  • 愛の瞬間/ジャーメイン・ジャクソン (美女と酒でも酌み交しながら聞き流してたら楽しいかもしれないが、あいにくそんな機会もなく、評論するために聞くにはとても苦痛)
  • スリー・マントラス/キャバレー・ボルテール (とにかく実につまらないアルバムだ。クラシック音楽かが自分をクラシック音楽家ときめたとき救いがたく陥る精神的怠惰さとまったく同質のものをここに感じる)
  • 1982年
  • ワーズ・フロム・ザ・フロント/トム・ヴァーレイン (ほんとに音楽を聞く耳を持たない人は、こういう思わせぶりにコロッと引っかかってしまうらしい。イヤですねえ)
  • 1983年
  • スリラー/マイケル・ジャクソン (黒人のもっともダラクし果てた姿を見せつけられた気がする。いまの黒人音楽をぼくがキライなのはこういう手合いがエバってるから。…1980年という時代にこんなにも安っぽい音楽が作られたことを後世の歴史家のための資料として永久保存しておくべきレコード)
  • 別れの美学/ソフト・セルII (ロック・ヴォーカルはヘタでもやれるか?という疑問に、やれます、と答えているのがこのレコード)
  • ファイナル・カット/ピンク・フロイド (聞き終わった感想をひとくちで言えば、アホラシー、ということ。…もったいぶり、コケおどし、大ゲサ、以外に使える形容詞は見当たらない)

あれ、ここまで意外と少ないな(笑)。 スリラーも0点だったですね。私は当時読んだ記憶がありません。この頃、ミュージックマガジンは私にとって「友達に借りて読むもの」だったので、ちょうど飛ばしちゃったかも知れませんね。

このクロスレヴューは、4人全員の意見が一致するよりもバラバラに割れる時の方が面白い。レコードの評を読んでいるというよりは、「このレコードをこの評論家はどう評価するのか」てことを読むことになるからです。

では1984年以降。どんな奴らだったか忘れてる人もいれば、ビッグネームもいる。評というか悪口の一節だけを取り出すと誤解があるかも知れません、全文(といっても200字強ですが)は本にあたってください。

  • 1984年
  • アライヴ・シー・クライド/ドアーズ (モリスンて自分で自分をカリスマだと思い込んでいる尊大さが露骨なんだもん)
  • 悪夢/サイキックTV (これだけぼくの嫌いな要素ばかりまとめ上げたようなのも珍しい)
  • タイム・アンド・ザ・リヴァー/ザ・ボンゴス (ヘタであることを恥じもせずやる音楽、エリート集団に属する連中の大らかさで何でもやっちゃうという態度、それが無邪気であればあるほどオレは胸くそ悪くなり、バカ,死ネ、とののしるだけだ)
  • 1985年
  • ファンズ/マルコム・マクラレン (この前のレコードはかなり感心したり気に入ったりして、けっこう持ち上げてやった(注:「俺がマルコムだ!」10点)のに、これはナンダ。がっかりさせやがって…)
  • 恋愛道/デル・フエゴス (例の出来損ない60年代風の、ガレージ・パンクってやつ。もうヘドが出そうなほど不愉快になる)
  • ドント・スタンド・ミー・ダウン/デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ (ヨーロッパ的ということならケイト・ブッシュの10倍ぐらい白人特有のワキガの臭気にあふれている…北中くんがソウルの誤解曲解と書いていたのはまさに当たり)
  • 1986年
  • サイコ・キャンディ/ジーザス&メリー・チェイン (いかにも大鷹(注:俊一。常連の評論家)好みのグループだ。ぼくはこういうのはゴメンこうむりたい)
  • レイン・ドッグ/トム・ウェイツ (出た。オレのいちばんキライなやつ。嫌悪というより憎悪している。(-10点))
  • ジャイアンツ/ザ・ボルショイ (最悪!最低!聞くに耐えない。不快感を与えるための音楽ってのがあるとしたら、これがまさにそうだ)
  • フラッグ/リック・ジェームス (こいつらは、ご先祖さまの遺産を金モーケに利用することしか考えていない。…歌唱にも演奏にも何の味わいも魅力もない。こんなものちっともファンクじゃない)
  • ラヴ・ミサイル/ジグ・ジグ・スパトニック (なんじゃこれは。こんなものが音楽か! 最後まで救急車のフンガフンガフンガという警笛みたいなもんだけじゃないか)
  • 1987年
  • YO! BUM ラッシュ・ザ・ショウ/パブリック・エネミー (こんなものを面白がっていては黒人音楽の衰亡は加速され、とりかえしのつかぬ破滅を来す。まさにラップは黒人民族の敵だ。一刻も早く撲滅しよう)
  • 1988年
  • リメンブランス・デイズ/ドリーム・アカデミー (注:引用するに憚られる差別的な表現がありますため、省略させていただきます)
  • フラッドランド/シスターズ・オブ・マーシー (こういうミュージシャンがぼくはいちばん嫌いなんだ。大した才能もロクなテクニックもないくせに、大仰にもったいぶって自分を偉く見せようとするやヤツ)
  • パブリック・エナミーII (ラップもラスタも、政治音痴の黒人達が自分の無知にイラ立って上げてる金切り声だ。…ハイプに乗せられるな、と叫んでるがラップこそハイプの最たるものだ。それにしてもこいつらもリズム感が悪いねえ (注:このレヴュー後、中村はPEのチャック・Dと対談します))
  • 新しいメルヘン/アンジー (クロス・レヴューは本来なら全然聞く気のないレコードを強制的に聞かされるのでぼくは降りたいと言ってるのだが編集部のみんなが降りさせてくれない。そしてこういうレコードを取り上げさせるなんてまるで拷問だ。(注:これが最後の0点。この2か月後、本当にクロスレヴューを降ります))

以上。これだとあまりに何なので、そのうち彼が10点つけて絶賛したアルバムも抜き出そうかな。

追記: というわけで

姉妹編つくってみました。 中村とうよう10点の歴史

なお、この追記を書いた2011年7月21日に氏は死去しました(享年79)。自殺、と伝えられています。何と言ってよいか、私は立ち尽くすのみです。

おまけ

B005KLQO7M MUSIC MAGAZINE (ミュージックマガジン) 2011年 10月号 追悼・中村とうよう
ミュージックマガジン 2011-09-20

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B005M36D3I ミュージック・マガジン増刊 中村とうようアンソロジー [雑誌]
中村 とうよう
ミュージックマガジン 2011-09-17

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10月号は中村とうよう追悼特集。アンソロジーの方は、彼がマガジン誌で書いてきた原稿のセレクション。もくじ等内容はミュージックマガジンの公式サイトをご参照。例の「チャック・Dとの激論」も収録されています。

posted by gyogyo6 at 23:49 | Comment(2) | TrackBack(0) | よい音楽(松) | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
もう「ニュー」ミュージックマガジンの購読をやめて10数年になります。
今回の報道には大きなショックをうけました。
あの時代、唯一ゼニに関係のない音を伝えてくれた、もう今後現れない方だと思います。
私の音楽への向き合い方を、教えてくれた愛すべき大先輩でした。合掌!!!
Posted by 羽田 和雄 at 2011年07月23日 20:43
こんにちは。はじめまして。
とうようさんのレビューのまとめ、ありがとうございます。少しとうようさんの本のことを書いてますので、こちらにリンクさせて頂きました。ありがとうございました。
Posted by takashi at 2017年07月25日 12:46
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